「もし親が倒れたら、仕事を辞めて介護に専念しなければならないの?」

ミドルエイジ世代にとって、親の介護は避けては通れない悩みです。

総務省の「令和4年就業構造基本調査(2023年7月)」によると、介護のために仕事を辞めた人の約4人に3人は女性だというデータがあります。「介護と仕事の両立は無理なんじゃないか」という不安は、特に働く女性にとって、決して大げさなものではありません。

でも、どうか焦って仕事を辞めないでください。実は、介護離職をしてしまった人の多くが、「使えるはずの制度を使わないまま」辞めているという悲しい現実があるのです。

この記事でわかること

  • 介護のために使える制度は正社員だけの特権ではない
  • 「介護休業給付金」で給料の約67%をカバーできる
  • 休むだけでなく、介護しながら働きやすくできる制度がいろいろある
  • 介護のフェーズ(段階)に合わせた制度の使い分けが大切

仕事と介護の両立に悩む女性へ、2025年の法改正に対応した制度のしくみや、フェーズ別の活用法を解説します。制度をうまく使い分け、あなたにとって無理のない介護と働き方を見つけるための知識をお届けします。

目次

  1. データで見る介護離職の現状―半数以上が制度を使わずに辞めている
  2. 「介護のために休みたい」時に使える制度―対象や介護休業給付金の額も
    1. 休みたいときに使える制度は介護休業と介護休暇の2種類
    2. 「寝たきり」じゃなくてもOK。制度が使える条件と家族の範囲
    3. パートや契約社員も対象 「正社員じゃないから」と諦めないで
    4. 給料の約67%をカバー 「介護休業給付金」
  3. 「介護しながら働く」を支える制度もある
    1. 「介護しながら働く」時に使える制度
    2. 「言い出しにくい」がなくなる?周知・意向確認の義務化
    3. 在宅勤務(テレワーク)の推奨
  4. 介護の始まりから安定期まで 「いつ」「どの制度」を使えばいい?
    1. 緊急フェーズ:発症・入院直後
    2. 体制構築フェーズ:退院準備・申請
    3. 両立フェーズ:在宅・施設
  5. 制度やプロを頼り、自分らしい介護の形を見つけよう

データで見る介護離職の現状―半数以上が制度を使わずに辞めている

介護は突然始まります。今まで元気に暮らしていた親が、脳梗塞や転倒による骨折などで突然入院する。あるいは、認知症の症状が進み、一人暮らしが心配になる。そんな事態に直面したとき、多くの人がパニックになってしまいます。「私が面倒を見なければ」「親を放っておけない」という責任感から、職場に「辞めます」と言ってしまうケースも少なくありません。

ここで、ひとつ衝撃的なデータをご紹介します。企業の信用調査を行う東京商工リサーチが、2025年の育児・介護休業法改正(介護離職を防ぐ環境整備の義務化など)に合わせて行ったアンケート調査(2025年4月実施)の結果です。(※対象:5570社/大企業423社、中小企業5147社)

介護離職者が出た企業のうち、なんと約55%が「本人が介護休業・休暇制度を利用しないまま退職した」と回答しました。

なぜ、制度を使わずに辞めてしまったのでしょうか。背景には、「会社での周知が足りず、制度があること自体を知らなかった」ことや、「自分が休んだら代わりの人がいない(代替要員の確保が難しい)」と諦めてしまったことがあるとみられています。

しかし、介護を理由に仕事を辞める「介護離職」は、経済的にも気持ちの面でも、とてもリスクが高い選択です。介護は子育てと違い、いつ終わるかの予測がつきません。数年、あるいは10年以上続く可能性もあります。その間、収入が途絶えれば、あなた自身の老後資金まで減らしてしまうことになりかねません。

「制度を知らなかった」「言い出しにくかった」という理由で、大切なキャリアと収入を手放してしまうのはあまりに惜しいことです。

2025年の法改正をはじめ、国は「介護しながら働く」ことを前提とした制度整備を進めています。介護離職をすぐに決める前に、「使える制度を使って無理なく働き続ける方法はないか」を考えることがとても大切です。いざという時に慌てないために、介護が始まったら使える制度や相談先を、正しく知っておきましょう。

「介護のために休みたい」時に使える制度―対象や介護休業給付金の額も

休みたいときに使える制度は介護休業と介護休暇の2種類

まずは、仕事を休んで介護の時間を確保するための制度です。大きく分けて「まとまった休みを取る制度(介護休業)」と「単発の休みを取る制度(介護休暇)」の2つがあります。

①介護休業

要介護状態の家族を介護するために、まとまった休みを取得できます。対象家族1人につき通算93日まで、3回が上限です。計画的に取得することをおすすめします。

②介護休暇

要介護状態の家族の介護や世話(通院の付き添い、介護サービスの手続きなど)を行うために、休暇を取得できます。時間単位での取得も可能なため、「午前中に通院に付き添って午後から出社」といった形でも利用できます。

どちらも、「家族が『要介護状態』であること」が条件になります。

「寝たきり」じゃなくてもOK。制度が使える条件と家族の範囲

対象が「要介護状態」と聞くと、「寝たきりじゃないとダメなの?」「要介護認定を受けていないと使えないの?」と不安になるかもしれませんが、安心してください。法律では「負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」と決まっています。

つまり、「お世話が必要な状態が2週間以上続きそう」であれば対象になります。必ずしも役所の「要介護認定」が下りている必要はありません。また、「常時介護」といっても、寝たきりレベルである必要もありません。たとえば、周りの支援が必要なレベルの物忘れがあり、かつ、排せつや衣服の着脱に一部介助や見守りが必要な状態であれば該当します。詳しい判断基準は、厚労省のWebページで確認することができます。

対象になる家族の範囲も広いです。「配偶者、父母、配偶者の父母、子」はもちろん、「祖父母、兄弟姉妹、孫」も含まれます。同居しているかどうかも問われません。たとえば「遠方に住む義理の父母」や「障害のある子ども」のケアなどでも制度を利用できます。

パートや契約社員も対象 「正社員じゃないから」と諦めないで

「私はパートだから、介護休業なんて取れないわよね……」 そう思い込んで、最初から諦めてしまっていませんか?

実は、介護休業や介護休暇は、正社員だけの特権ではありません。パートやアルバイトであっても、原則として利用できる権利です。

ただし、「入社1年未満」「1週間の所定労働日数が2日以下」「申出の日から93日以内に雇用期間が終了する」などの場合に、勤務先によっては取得できないルールとなっていることがあります。会社の就業規則で確認したり、担当者に相談したりすることをおすすめします。

なお、介護休暇については、「入社6ヶ月未満の労働者は取得できない」とするルールを作れなくなりました。2025年4月以降、週3日以上働いている人なら、入社したばかりでも介護休暇が取れるようになったのです。(※週2日以下の勤務の方は、引き続き対象外となる場合があります)このように、制度を使える対象が少しずつ拡大しています。

給料の約67%をカバー 「介護休業給付金」

制度を使って休めることはわかっても、「その間の生活費はどうなるの?」というお金の不安も尽きません。「働いていない時間は給料が出ない」というのが基本ルールなので、休んでいる間の「給料」は出ない会社がほとんどです。

しかし、介護休業を取った方が雇用保険に入っている場合、一定の条件を満たせば「介護休業給付金」がもらえます。金額の目安は、休む前の給料の67%で、非課税で受け取ることができます。

たとえば、月収が15万円のパート勤務の方であれば、月額約10万円の給付金が受け取れます。

※正確な金額は休む前の給料実績によって計算されます。上限もあり、2025年8月以降の上限額は35万6,574円です。

給付金は原則、職場復帰した後に申請・支給されるしくみですが、生活の支えとして非常に重要です。「休んでも無収入にはならない」という事実は、安心して介護の準備をするための大きなお守りとなるでしょう。

「介護しながら働く」を支える制度もある

「介護しながら働きたいけど、今の働き方のままでは難しい」ということもよくあります。そんなとき、無理のない働き方ができる制度もあります。

「介護しながら働く」時に使える制度

①所定外労働・時間外労働の制限

簡単に言うと、「無理な残業を断れる権利」です。会社と契約した時間(所定労働時間)を超えて働くことを免除してもらうことや(残業ゼロ)、残業をする場合でも「1ヶ月24時間まで、1年150時間まで」の上限を設けることができます。「デイサービスの送迎時刻までには帰りたい」といった生活のリズムを守るために重要な制度です。

②深夜業の制限

介護のために請求すると、22時から5時までの間の深夜勤務を免除してもらえます。ただし、勤務時間が元々全て深夜であった人や、他に介護できる人がいる場合など、対象外となるときがあります。

③短時間勤務等の措置

次の措置のいずれかを、利用開始から3年以上の間で2回以上利用できます。仕事の時間を減らして介護の時間を増やしたいときに助かる制度です。

  • 短時間勤務制度
  • フレックスタイム制度
  • 時差出勤の制度
  • 介護サービス費用の助成

いずれも、要介護状態の家族の介護をするために利用できます。日々雇用される労働者の他、「継続雇用1年未満」「1週間の所定労働日数が2日以下」の労働者は対象外です。

「言い出しにくい」がなくなる?周知・意向確認の義務化

制度があるのは知っていても、「利用しづらい職場の雰囲気を感じる」「上司に言い出しにくい」という悩みを持つ方も多いでしょう。しかし、こうした状況も変わりつつあります。

これまでは、従業員が自分から「介護休業を取りたい」と申し出なければなりませんでした。しかし2025年の育児・介護休業法改正後は、介護に直面したと申し出た従業員に対して、会社から介護休業制度などについて周知することが義務化されました。どの制度を利用するか、個別に意向の確認も行われます

また、従業員が40歳になるタイミングの前後などに、介護が始まる前の段階で、会社から従業員へ向けて介護制度の説明が行われることにもなりました。

これにより、自分から言い出しにくかった方も、制度を利用しやすくなるのではないでしょうか。

在宅勤務(テレワーク)の推奨

コロナ禍で普及したテレワークですが、介護との両立手段としても重要視されています。改正法では、介護を行う労働者がテレワークを選択できるよう、企業に対して努力義務が強化されました。「週に数日は自宅で仕事をすることで通勤時間をなくし、介護の時間に充てる」といった働き方が、より一般的になっていくでしょう。

介護の始まりから安定期まで 「いつ」「どの制度」を使えばいい?

介護と仕事の両立において重要なのは、状況に応じた「制度の使い分け」です。介護のフェーズ(段階)は、大きく分けて「緊急フェーズ」「体制構築フェーズ」「両立フェーズ」の3つに分類できます。

それぞれの段階でやるべきことと、活用すべき制度は異なります。焦らず対応するためにも、まずは流れを確認しましょう。

緊急フェーズ:発症・入院直後

親が倒れたり、入院したりした直後は、まさに緊急事態です。この段階では、病院への駆けつけや入院手続きなどで休みが必要になります。ここではまず、年次有給休暇(有給)を使って対応します。2週間以上常時介護が必要な状態とわかっていれば、介護休暇も選択肢に入ってくるでしょう。

そのため、親の病状や今後の見通し(いつ退院できるか、後遺症は残るかなど)を医師に確認し、情報の整理に努めることが大切です。

体制構築フェーズ:退院準備・申請

病状が安定し、退院の話が出始める時期です。ここが両立生活の基盤を作る上で最も重要な時期となります。

親が自宅に戻るのか、施設に入所するのかを決めるために、医療ソーシャルワーカーやケアマネジャーに相談できるといいでしょう。平日昼間に役所へ行ったり、施設見学をしたりと動くことが増えるため、ここで「介護休業」を活用します。

「介護休業」は、自分で介護をするためではなく、「介護サービスの利用環境を整えるため」に使う制度だと認識してください。

介護保険で受けられるサービスも知っておくと安心です。下の図を参考にしてみてください。

両立フェーズ:在宅・施設

介護サービスを利用しながらの生活がスタートします。日常的なケアはプロに任せつつ、定期的な通院の付き添いや、急な体調不良時の対応、ケアマネジャーとの定期面談などを行います。

この段階では、1日単位や時間単位で取得できる「介護休暇」や、残業を免除してもらう制度などを活用し、仕事のペースを調整しながら日常を取り戻していきます。

大切なのは、家族だけで全力で介護に取り組むのではなく、制度をうまく組み合わせた無理のない介護スタイルを作ることです。困ったときは積極的にプロに相談することも大切です。以下のような相談先があります。

制度やプロを頼り、自分らしい介護の形を見つけよう

仕事と介護の両立の鍵は、一人で抱え込まないことです。親が元気なうちに職場の制度や相談先を調べ、準備しておくと安心です。制度やプロを味方につけ、無理なく向き合える、あなたらしい介護の方法を見つけていきましょう。