※この記事は、#2 ~私、いつまで最低賃金で働き続けるんだろう?~ からの続きです。

●仕事の本質は、人と人のつながり

ここまでのキャリアを振り返ってみると、いつも人との出会いや小さなきっかけが私を次のステージへと導いてくれたように思います。
少しの不安と、それを上回る好奇心。新しい環境へ飛び込み、一歩踏み出すたびに、思いがけない出会いや経験が私に大切な気づきを与えてくれました。

転職を繰り返し、寄り道ばかりしてきたように見える私のキャリアですが、振り返ってみると「無駄な経験などひとつもなかった」と心から思います。
一見、今の生活とは関わりがなさそうな出来事も、私の中に静かに息づき、考え方や価値観の礎になっているのです。

特に私が強く感じるのは、「仕事の本質は、人と人のつながりである」ということ。
目の前の課題に向き合い、価値を探索し、自分なりのやり方で貢献していく──そんな営みが「仕事」として成り立つ背景には、必ず人との関わりがあります。

●本質を見極めて全力を尽くす、ある女性との出会い

社会人になりたての頃、どこか大学時代の延長のような感覚だった私の意識を、大きく変えてくれた出会いがありました。
新卒で勤めた仕事を、結婚を機に退職。24歳の時、アルバイトとして雇っていただいたのは、健康食品を扱うオンラインショップ運営の仕事でした。
スタッフは代表と私の二人だけ。業務量は膨大で、毎日タスクに追われていました。

ある時、「一人でこなすには仕事が多すぎる」と訴えた私に、代表は静かにこう言いました。
「この仕事の本質は何か、よく考えてみて」

ハッとしました。言われたことや発生したタスクを、上から下へ流すだけでは「仕事」とは言えない。仕事の本質を見極めた上で、課題に対して自分の頭で考え、解決策を見出し、行動に移すことが必要なのだと気づかされました。

代表は私より8歳年上で、家業の一部を引き継ぐ形でオンライン部門を立ち上げた女性でした。仕事に対する覚悟も視座も、当時の私とは比べものにならなかったと思います。
学生気分が抜けきれなかった私を、彼女はどう見ていたのでしょうか。私が新しいことに挑戦して失敗しても、決して怒らず、黙って一緒に後処理をしてくれました。

優しく、そして厳しい姿勢で接してくれた彼女のおかげで、私はようやく社会人としての一歩を踏み出すことができました。

「社会人」の意味を初めて知ったような気がした(写真はイメージです)

●20代でホテルの副支配人に。休みなく働いた3年間

25歳の時、夫から「転職したい」と打ち明けられました。
大学時代、必死に就職活動をする姿を見ていた私は、念願だった会社を辞めると聞いて、正直すぐには理解ができませんでした。

話を聞くと、長時間労働で家にいる時間もほとんどない中、「このまま会社員として一生を終えていいのか」と悩んでいたようでした。
スキルや経験に自信が持てず、何かを学ぶ余裕もない。そんな葛藤の中で、「まだ若いうちに挑戦したい」という思いが芽生えていったのだと思います。

どうすればいいのか、私にも正解は分かりませんでしたが、最終的には彼の気持ちを応援しようと決めました。

夫は早期退職制度を利用して会社を辞め、いろんな仕事を探す中で、あるビジネスホテルチェーンの支配人募集に応募。それは、夫婦二人でホテル1棟を運営するという仕事でした。
書類選考、面接を経て採用が決まり、私たちは研修を経て、新しくオープンするホテルの支配人・副支配人として働き始めました。

任期は3年間。雇用される働き方とはまるで違い、すべてを自分たちで回さなくてはなりません。
業者さんとの交渉、スタッフの採用と教育、売上管理に稼働率アップの施策、安全面のチェックまで、全部が自分たちの仕事です。

大変なことは山ほどありました。でも、得られた学びはそれ以上。自分で考えて動いた分だけ、ちゃんと結果が返ってくる感覚がありました。

今でも思い出すだけで胃がきゅっとするような失敗もあります。精神的にまいってしまったこともありましたが、そんな時、いつも隣で支えてくれた夫の存在が、何より心強かった。
あの3年間を一緒に走り抜けたことで、私たちは心から信頼し合えるパートナーになれた気がします。

2025年、結婚25年目に突入

●たくさんの人と接する中で芽生えた想い

ホテルには日々さまざまなお客様が訪れます。たくさんのお客様の思い出が、今も心に残っています。

私の担当は、主に朝の時間帯。笑顔でフロントに立ち、「行ってらっしゃいませ!」とお見送りするのが日課でした。
いつもとは違うアウェイな環境で、緊張感の中、仕事に臨む方も多かったはず。少しでもお客様の心が軽くなるように──そんな思いで、できるだけ明るく、前向きな対応を心がけていました。

やがて、ホテルの外で会う人たちも、お客様と同じなのだということに気づきました。
街行く人たちに「この人も、仕事へ向かう途中なのかな」と思いを馳せ、「今日もいい一日になりますように」と、心の中で願う自分がいました。

世の中は、たくさんの人の「仕事」で成り立っています。
それぞれの人が自分の役割を果たしながら、前向きに、楽しみながら働くことができたなら、この世界はどんなに明るくなることでしょうか。

3年間の任期を終えた後のことは、まだ決めていませんでしたが、「働く人の心を少しでも明るくできるような仕事ができたらいいな」と、漠然と思い描いていました。

NEXT⇒#4 ~家庭優先、でもやりがいも欲しい! 理想のワークスタイルを実現するには?~に続きます。

国家資格キャリアコンサルタント
西田明日香さん

国家資格キャリアコンサルタント/AEAJ認定アロマセラピスト​/​アロマテラピーインストラクター​
遺跡調査員、オンラインショップの運営、ビジネスホテルの副支配人、時間制カフェの経営、オーダーメイド紳士服の販売員、人材会社のイベント企画など、経験職種は12種類+α。夫の転勤・転職、出産などの転機を乗り越えながら、業種、働き方、組織形態など多岐にわたる環境の中で経験と人脈をつなぎながら仕事を広げる。2020年よりオンラインアシスタント、ライター、キャリアコンサルタント、アロマセラピストなど幅広い分野で自分らしさを活かすパラレルワーカーとして活動。趣味はランニング、お灸、アロマテラピー。好物はタコと麩菓子。仕事も暮らしもまるごと楽しむ前のめりスタイルが持ち味。
1978年生まれ|山形県山形市出身|東京都多摩市在住|家族は夫と3人の子どもたち