イラストレーターやマンガ家など、絵を描く仕事に興味を持つ人は多いでしょう。しかし、その内情については、あまり知る機会がないものです。そこで今回は、イラストレーター兼マンガ家のノグチノブコさんにインタビュー。現在のお仕事にいたるまでの経緯や、普段のお仕事の様子、案件を得る方法などについて、詳しくうかがいました。

入院と退職を機に、もう一度イラスト&マンガの道を目指す

━━まず、イラストやマンガの仕事を始めたきっかけについて教えてください。

20歳の頃にマンガの専門学校を卒業し、その後すぐにマンガ家として活動していました。しかし、スキル的に乏しく収入も不安定で、一度挫折してしまったんです。その後、何度か転職もしながら会社員として働いていましたが、落ち着いて仕事をしていた矢先に今度は体調を崩してしまいまして。さらに、そのタイミングで勤めていた会社が解散することになったんです。 体調が良ければ親会社に移籍できましたが、入院もしなければならず、「まずは療養してください」ということで会社もリストラになりました。

そして、退院してしばらく体を休めた後、再就職も考えましたが、入院を経験したことで「命は意外と短いんじゃないか」と思ったんです。 いつ死ぬかわからない人生の中で、やり残したことや好きなことにちゃんと向き合いたいという気持ちが出てきて、マンガやイラストの仕事がどうしても心残りだったことに気づき、「この仕事を頑張ってみよう、今度は人生かけてやっていこう」と、9年くらい前から再始動しました。

━━そのような経緯があったのですね。現在は、主にどのようなお仕事をされているのでしょうか。

今はイラストとマンガを描く仕事をしていて、イラストはWebサイトや雑誌、書籍の挿絵などが多いです。マンガだと、書籍やWebサイトに掲載するもの、あとは個人の方向けにマンガを描くこともあります。

たとえば、その人の人生をマンガにするなど、そういったオーダーメイドの仕事もたまにありますね。

━━色々なお仕事があるのですね。ちなみに、1週間の稼働時間はどのくらいですか。

絵を描く実働の時間だけでいうと1日3時間前後、それが週4~5日という感じです。でも、事務作業や人に会う営業活動のようなもの、絵の練習・スキルアップなどの時間も含めると、毎日何かしらしている状態ですので、ある意味週7で働いているともいえますね。

忙しい時期は、週7で作画することもあります。

━━お仕事は、どのように獲得されているのでしょうか

原稿料が決まったうえで依頼が来ることもありますが、逆にこちらから企画書を出して提案することもあります。先日、企画書が通ったので、その企画から本を書くという作業を進めているところなんです。
この仕事の営業というと、大まかに、自分から企業に売り込みに行くタイプと、SNSで作品を発表して企業に見つけてもらうタイプの2パターンがありますね。仕事が入ってくるようになると、自分で営業に行かなくても既存のクライアントさんから「またお願いします」と依頼されることが多くなり、いい循環ができてきます。

「人との縁」を大事に、お金は節約しすぎない

━━次に、収入面について教えていただきたいのですが、現在の収入はどのくらいでしょうか。

それも月によって結構まちまちなところがあり、たとえば納品が今月だとしても、掲載は再来月、振り込まれるのはその翌月となると、実際に収入が入るのは3ヶ月後です。なので、入らなかった月はゼロになることもある。それでいて一気に50~60万円ポンっと入る月もあります。なので、1ヶ月いくらとはすごく言いづらい業種ではありますね。
収入0円の月が2ヶ月3ヶ月重なることもまれにありますが、「お金を使わないでおこう」とはあまり考えすぎないようにしています。私の場合、人と会い、その人が縁を運んで次の仕事につながることが結構あるんです。なので、収入がない期間にお金を制限するよりも、「人のために役立つことを積極的にやっていき、やがてそれが実となって返ってくる」と考えて行動しています。

もちろん、多少は預貯金などの余力があったうえでのことですが。

━━なるほど。では、今の収入になるまでの期間や経緯を教えていただけますか。

再始動したのは2015年くらいですが、当初はクライアントもいない状態でゼロからスタートしました。はじめのうちは、以前面倒を見てくださっていた方から名刺や似顔絵の作成をお願いされて、そのうち別の方から「Webマーケティングを手伝ってほしい」と言われてそのお手伝いをするなど、色々な方から少しずつお仕事をいただくようになりました。
そうする中で私もスキルアップしていき、その完成品を見たまた別の方から声がかかり、活動の幅がだんだん広がってもう少し大きな企業や、知り合いじゃない方から声がかかるようになっていった…という感じです。

再始動して4年間くらいは、このように少しずつゼロからイチを作っていく時期でしたね。

━━マンガの専門学校に通っていらっしゃったということですが、現在、イラストやマンガのスキルはどのようにブラッシュアップされていますか?

イラストやマンガの世界も常に新しい方が出てくるので、最新の知識を身に付けたり、Webセミナーを定期的に受けて絵のスキルアップをしたりしていますね。Webセミナーでは、たとえば「人間の骨格を描いてみよう」など、基礎的なところや知っているところももう1回学び直すことを意識しています。
夜の時間はできるだけ絵の練習をしたり、お昼を食べながらセミナーのアーカイブ配信を見たり。配信を見ているだけでも気持ちがシャキッとするので、スキマ時間を利用して学んでいます。

━━スキマ時間もうまく活用されているんですね!では、1日のタイムスケジュールを教えていただけますか。

起床が大体6時半~7時くらいで、その後はラジオ体操をして、毎日『7つの習慣』という同じ本を読んでいます。その本を読むと気持ちがシャンとするし、自分の暮らしが整ってくる感覚があるんです。

なので、精神統一の時間として自分の気持ちをスッキリさせる時間を朝必ず取るようにしています。


本を読んで家事や朝食も終わると大体10時くらいになりますが、午前中は自分のために使う時間として工面していて、自主制作のマンガを描いたり、勉強の本を読んだり学習に使っています。
午前中終わりくらいから軽く仕事を始め、ランチを挟んで16時、17時くらいまでは作画作業するように配分しています。そこからは今度は事務作業に入り、お金の整理やメール返信などをします。

その後、夜ごはんやお風呂を済ませてテレビを観たりすると23時くらいになり、寝る前に軽く絵の練習をして、その日は終わりという感じです。

書店でフェアを組まれる作家になりたい

━━どういったところにお仕事のやりがいや楽しさを感じますか?反対に、大変なことは何でしょうか?

絵が描けるということは、何より嬉しいことだなと思っています。会社員の頃は、描きたくても描く仕事がなかった。今は、絵を描いているとどんな仕事でも楽しくなってしまいます。
逆に、スケジュール管理が大変ですね。1本2本ならダッシュでできますが、実際は、期間の長い案件や短い案件が常に混在している状態で仕事を進めていきます。それぞれのスピード感を考え、それに加えて外に出かける用事もけっこう間に挟まってくるので、そのあたりの配分をパズルみたいに組んでいくのは結構大変です。
期間の長い案件ですと、1冊の冊子を作るにあたってコンスタントにマンガを描き続けますので、「1年間でどういうスケジュールにしていくか」と考えなければならず、長いマラソンという感じです。さらに、私のコンディションが悪くなったりすると時間が伸びてしまうこともあるので、その辺の調整もあって難しいですね。
ちなみに、スランプに陥ることもありますが、仕事がコンスタントに来るようになってからは、「じきに描けるようになるさ、大丈夫」という気構えになりました。

昔は描かなくてもいられる環境だったので、描けなければしばらく休む…というのができましたが、今はお届けする相手が決まっているので、「描けなくても描く!」みたいな意識になりましたね。

━━今後の展望や目標は何かありますか。

目標は、「ノグチノブコフェア」を書店で組まれるような作家になることです。そのために、書籍を何本も作りたいなと。書籍は、できれば年に1本くらいは描き続けられたらと思います。
それと、もっとマンガを描きたいですね。

目下の目標は、自分の好きな絵を描いて仕事の時間を減らし、収入を増やすことです。少しずつそうなれるよう、単価を上げる交渉を頑張っていきたいですね。

━━イラストやマンガのお仕事に興味を持っている方は多いと思います。そういった方に向けて何かアドバイスがあればお願いします。

「自分は何を目指しているのか」ということについては、自己分析をたくさんやったほうがいいと思います。私も駆け出しだった時、恩師のような方から自己分析をたくさんさせてもらえた時期があり、それがあったからこそ、自分に合う仕事の取り方・やり方を見つけることができました。自己分析は、ずっとやり続けるくらいがちょうどいいですね。
たとえば、イラスト1つとっても、「何がイラストの楽しいところなのか」というのは、実はみんな違います。それに、もしかしたらイラストじゃなくてもその「楽しい」を満たすことができるかもしれない。手段にとらわれることが多いですが、もっと大きい、自分の「こうしたい」という点に着目すると、自分の願望が満たされた仕事選びや生き方ができます。

今、私はイラストの仕事をしていますが、「何が自分にとっての喜びなのか」ということは、やはり問い続ける必要があると思っています。