
就労年数や職務体験を重ね、キャリアや収入が安定していても、予期しない体調の変化や家族の事情で、働き方を見直す必要が生じる場合があります。新しい分野への挑戦は大きな意義がありますが、年齢を重ねてからのキャリアチェンジにはリスクも伴うため、慎重さも求められます。だからこそ、実際に経験した人の言葉は貴重なヒントになります。今回は、自身の健康管理と親の介護を両立しながら副業にも取り組んでいるつじまゆこさんに、働き方の工夫や体験談をうかがいました。
ミドル世代に訪れた転機──在宅副業という自分に合う働き方
━━現在は、どのような仕事をされていますか。
メインは企業のパートの仕事で、事務全般を担当しています。職員の方から就労規則に関する相談やメンタル面での悩みを受ける場合もあります。
それに加えて副業を2つしています。1つは単発の仕事で、自分に合いそうな案件に応募し採用されれば働いています。もう1つは、ベーカリー店がイベントブースに出店する際にお手伝いする販売スタッフです。
━━ 以前の仕事の内容と、働き方を変えようと思ったきっかけを教えていただけますか。
正社員として、今もパートで続けている事務の仕事に就いていました。しかし、3年前に体調を大きく崩し、フルタイムで働くことが難しくなってしまったんです。ちょうどその頃、会社で雇用形態の見直しがあり、パート勤務へ切り替えることにしました。
私はシングルで子どもはいませんが、同居している両親の介護をしています。ミドル世代に差しかかり、これからの暮らしを考えると、パートの収入だけでは経済的な不安を感じました。
何かできることはないかと探していたときに、県が実施している自営型テレワーク促進事業を知り、「在宅ワーク入門講座」を受講しました。その後、両親を支えながら自宅でできるパソコン業務を中心に副業を始めました。
パンのイベント販売は、通っているベーカリー店のパン教室の先生にお声をかけていただいて始めました。
━━ 体調を崩されたことで、パート勤務と副業を並行されるようになったのですね。これまで経験された単発の仕事をいくつか教えてください。
ライティングの請負業務で、食べ物のおすすめ記事や私の介護体験などを執筆しました。そのほか、スマートフォンのアプリを操作して、使い心地を報告するモニターも経験しました。
━━ ライティング業を始めるにあたって、スキルや知識を身につけたり、資格を取ったりしましたか。
在宅ワークの入門講座を受けた後に、Webライター向けの養成講座を受講しました。そこでは、Webライティングの基本ルールや検索で上位に表示されやすいキーワードの選び方、使用を避けるべきNGワードなどを学びました。実習では、受講生同士でペアを組み、お互いにインタビューをして記事を作成する課題にも取り組みました。
私はもともと本を読むのが好きで、ライティングの仕事は自分に合っているのではと思っていたんです。しかし、実際に案件を受けたときに、クライアントの意向に沿った文章に仕上げることの難しさを痛感しました。現在は、他のライターが書いた記事を参考に、文章構成や表現方法を研究し、ライティングのスキルを磨いています。

フルタイムからパートへ――“生まれた”時間のゆとりが「学び直し」と「スキルアップ」につながった
━━現在の働き方と以前の働き方を比べたときに、何が一番変わりましたか。
パート勤務になって就労時間が減り、心と時間にゆとりが生まれたことです。体調を整えるためにも大切な時間ですが、空いた時間を活用して、さまざまな講座を受講できるようになりました。フルタイムで働いていた頃は疲れがたまり、学びたい気持ちがあってもなかなか行動には移せませんでした。
パートの仕事や親の介護に役立てられたらと思い、今は放送大学で、メンタルヘルスや認知症に関する講座などを半年ごとに1科目ずつ受講しています
━━ 在宅の仕事に、やりがいは感じていますか。
誰かの役に立てたと感じるときは大きなやりがいがありますが、単発の仕事が多いこともあり、以前のように達成感を得られる機会は減ったように思います。
その一方で、副業を通じて新しいスキルを学ぶことにやりがいを感じるようになりました。WordやExcel、PowerPointが使えれば十分だと思っていましたが、募集案件を見て自分のスキルが止まっていたことを知りました。チラシを作る案件の際、Canvaが使えないことが採用条件に影響したため、徹夜で勉強したこともあります。
Canvaなど新しいツールを覚えたり、今までとは違う分野に挑戦したりする中で、「自分の世界が広がっている」と感じる瞬間があります。

━━ 現在の働き方で、大変なことや苦労する点はありますか。
フルタイムからパート勤務になったため、収入面で以前よりも限りがあることですね。最初のうちは気にせず過ごしていたのですが、時間がたつにつれて「このままでいいのかな」と考えるようになったんです。
その頃から、お金の管理や暮らしの工夫に関心を持つようになりました。資産形成の基礎を学ぶセミナーに参加したり、日々の中でできる節約やポイント活用を始めたりして、小さな積み重ねが将来の安心につながることを実感しました。それは副業の仕事にも共通していると感じています。
━━ 副業の収入はどのくらいありますか。
単発の仕事とパンのイベント販売を合わせて、月におよそ1万円ほどです。副業を始めて実質1年ほどになりますが、体の様子を見ながら少しずつ動いています。
現在は単発の案件が中心ですが、今後はブログ記事の執筆やSNSの運用代行など、継続的なライティングの仕事にも挑戦していきたいと考えています。
━━1日のスケジュールを教えてください。
朝は5時に起きて、8時半頃に通勤のため家を出ます。週に3日は9時から14時半までパート勤務です。16時前には帰宅し、家事を済ませたあと、在宅の仕事をしたり、放送大学のオンライン講座で学んだりして、23時頃には就寝しています。

体調の変化や親の介護を見据えて考える、無理のない働き方
━━ いろいろ学ばれていらっしゃいますが、将来はどのような仕事をしたいと思っていますか。
在宅ワークを軸に働きたいです。ライティングの仕事を通して、私自身の病気の経験や両親の介護の体験を発信し、同じような悩みを抱える方々の力になれたらと思っています。現在学んでいるメンタルヘルスの知識も生かしながら、心と暮らしの両面で寄りそえるような発信を続けていきたいです。
━━自分の健康面や親の介護を見据えて、働き方を見直したいと考える方は多いのではないでしょうか。健康に不安を抱えている方や、転職を余儀なくされている方に向けて、働き方や仕事を変える際のアドバイスをお願いします。
ミドルエイジになると、実際のところ仕事探しはそう簡単ではありません。生活を続けていくためにも、すべてを一度に変えようとせず、少しずつ段階的に進めていくほうが気持ちの負担も金銭面の不安も少なくてすむと思います。たとえば、利用できる制度をうまく活用するのも一つの方法です。私の場合は、体調を崩したときに病気休職を利用したり、勤務形態をパートに変更したりするなど、会社のご配慮をいただきながら働き続ける道を選びました。
それから、「我慢することが美徳」と言われることもありますが、ときには周りに頼ることも必要だと思います。私は親の介護をしていることを職場に伝え、必要に応じて勤務を調整していただいています。あらかじめ事情を共有しておくことで、急な休みが必要になったときも理解を得やすくなります。つらいときには、「助けが必要です」と伝える勇気を持てるといいですね。そのかわりに、自分が誰かを支えられる場面では、できるだけ手を差し伸べたいと思っています。お互いに支え合う気持ちが、働き続ける上で何より大切だと感じます。
そして、もし新しい道に進もうと決めたなら、積極的に外に出て人と関わってみることをおすすめします。私自身、病気をきっかけに外に出るようになり、講習会でたくさんの人と出会って、仕事の情報や学びの機会を得ることができました。「世の中にはこんな仕事や働き方もあるんだ」と驚くことばかりです。新しい学びや出会いを通して、自分の世界を少しずつ広げていくことで、これからの人生にも新たな可能性が見えてくるように思います。
