
「障害年金」と聞くと、「自分には関係ない」「重度の障害がある人だけのもの」と感じるかもしれません。しかし、病気やけがで生活や仕事に支障が出ることは、誰にでも起こる可能性があります。そんなとき、現役世代でも受け取れる非常に大切なセーフティネットとなるのが障害年金です。
障害年金などの社会保障でいくら受け取れるかを把握しておくことは、今元気な方にとっても役立ちます。安心感が得られるのはもちろんのこと、民間保険への加入や見直しにも活用できるからです。たとえば、住宅ローンを組む場合に加入する「団体信用生命保険」の疾病特約や、民間の「収入保障保険」「医療保険」などを検討するとき、保険の入りすぎを防ぎ、無駄な出費を抑えることができます。
この記事でわかること
- 「初診日から1年6ヶ月経過」が障害年金開始の目安
- 働いていても「仕事に著しい支障がある」場合は対象になる可能性がある
- 年収が低くても、仕事に著しい支障がある場合、年間約62万円(3級)もらえる
- 障害年金に付随して受けられる制度もいろいろある
目次
- 障害年金とは? 誰がもらえる?対象と要件を確認しよう
- 障害年金は誰がもらえる?
- いつからもらえる?傷病手当金との違いは?
- 障害年金はいくらもらえる?障害等級と金額の目安
- 障害年金が支給される障害の程度と等級
- 障害年金でもらえる額の目安
- 【ケース別】障害年金の受給例
- ケース①:うつ病 障害基礎年金・障害厚生年金1級
- ケース②:乳がん 障害基礎年金・障害厚生年金2級
- ケース③:関節リウマチで人工関節置換 障害厚生年金3級
- 障害年金に付随して受けられる制度も知っておこう
- 障害年金生活者支援給付金
- 国民年金の法定免除
- 医療費の軽減
- 税金の控除
今回は、今知っておきたい障害年金のしくみや受給金額を、女性の受給例を交えながらわかりやすく解説します。「もしも」の時に「知らなかった」と後悔しないために、また、適切な備えをするために、必要な知識を身につけておきましょう。
障害年金とは? 誰がもらえる?対象と要件を確認しよう
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事に支障が出た場合に国から支給される、公的な年金です。老齢年金や遺族年金と並ぶ、公的年金の重要な柱の一つであり、困ったときの経済的な支えとなります。
障害年金は誰がもらえる?
障害年金をもらえるのは、おおむね以下の3つの要件を満たした人です。
- 障害の原因となった病気やけがについて初めて病院を受診したとき(初診日)に、国民年金や厚生年金に加入していた人(被保険者)、もしくは、以前国民年金に加入していた60歳以上65歳未満で日本に住んでいる人
- 保険料納付についての要件を満たしている人
- 障害認定日(原則初診日から1年6ヶ月)以降に、定められた障害等級の状態にある人
※20歳前の傷病で障害状態になったときは③の要件のみ満たせばよい
そして、初診日に厚生年金に入っていたかどうかや、障害認定日の障害の状態によって、表にある3種類の障害年金のうち、自分に当てはまるものが支給されます。なお、障害基礎年金と障害厚生年金は同時に受給できます。

保険料納付についての要件は、国民年金の滞納状況が関係します。滞納があると障害年金を受給できなくなる恐れがあるため、20歳を過ぎたら忘れずに国民年金の加入手続きをすることが大切です。学生の間は「学生納付特例」、収入が少なく納付が難しい場合は「免除」などの制度もありますので、滞納にならないよう注意しましょう。
いつからもらえる?傷病手当金との違いは?
障害年金がもらえるのは、「障害認定日」以降です。
「障害認定日」とは、初診日から1年6ヶ月経過した日、または1年6ヶ月以内にその病気やけがの症状が固定した場合は固定したその日のことを言います。その他、「人工透析を開始してから3ヶ月を経過した日」「在宅酸素療法を開始した日」といった形で特別に障害認定日が定められている疾病もあります。
多くの場合は初診日から1年6ヶ月を経過した後に障害年金の申請をして、認定されれば数ヶ月後に支給が開始されることになります。
では、それまでの間の生活はどうしたらいいのでしょう。
そこで活用できるのが「傷病手当金」で、会社員や公務員として健康保険に加入している人が対象です。働けない間、おおよそ毎月の給料の2/3が1年6ヶ月の間支給されます。
このように、たとえば会社員の方が急な病気で働けなくなった場合には、最初の1年6ヶ月は傷病手当金、その後は障害基礎年金と障害厚生年金、といった形のセーフティネットが公的に用意されています。
障害年金はいくらもらえる?障害等級と金額の目安
障害年金は、どの程度の障害が対象になるのか、また実際にいくら支給されるのかを見ていきましょう。
障害年金が支給される障害の程度と等級
障害年金が支給される障害の程度は、おおむね次の表のとおりです。
なお、障害者手帳の等級とは判断基準が異なります。障害者手帳をもっている場合でも、等級が一致しないことがあるので注意が必要です。

「全く働けない状態じゃないと支給されない」というのもよくある誤解です。障害年金をもらいながら、自身の体調に合わせて働いている人は多くいます。厚生労働省の調査※では、65歳未満の受給者の43.1%が就業しています。
※厚生労働省「年金制度基礎調査」(令和元年度)
障害年金は、生活を支えながら治療や無理のない範囲で働くための大切な基盤にもなります。
障害年金でもらえる額の目安
支給額は老齢年金と同じように毎年見直しが行われますが、障害基礎年金の2025年度目安額は以下のとおりです。

初診日に厚生年金に加入していなかった場合、受け取れるのは障害基礎年金のみですので、表の金額が障害年金の総額となります。
一方、障害厚生年金は、会社員や公務員として働いていたとき(厚生年金加入中)の収入に応じて金額が決まります。その金額をもとに、表のように、障害状態(級)が重くなるにつれて額が増えたり、配偶者の加算がついたりするしくみです。
なお、配偶者の加算は、生計を同じくしており、年収が850万円以下の夫・妻がいる場合に対象とされます。

このように、厚生年金に加入していたことがある方は、障害基礎年金と厚生年金が両方もらえるため、より手厚い経済的な保障を受けられます。

【ケース別】障害年金の受給例
障害厚生年金の具体的な支給額の目安を、ケース別に確認してみましょう。
障害基礎年金や加給年金も含めた総額でご紹介します。
ケース①:うつ病 障害基礎年金・障害厚生年金1級
属性:55歳女性 元会社員(22歳~53歳)
家族:夫(64歳)、子(21歳・17歳)
病名:うつ病
障害の状態:長期間の休職を経ても回復せず退職。日常生活にも著しい制限があり、身の回りのことが困難な日も多い。
大学卒業後から長く会社員として働いていたところ、心労が重なってうつ病を発症したケースです。 子の加給年金は、「18歳到達年度の末日までにある子(または、障害等級1級または2級の障害状態にある子)」が対象です。このケースでは、21歳の子は対象外となってしまいますが、対象である17歳の子の分が加算されます。
(支給例)
障害基礎年金1級:約104万円
障害厚生年金1級:約120万円
加給年金:約48万円(夫・子一人分)
合計:年間約272万円
過去に長く高い報酬を得ていた場合、その報酬に比例して年金額も増えます。結果として、生活を維持するための非常に強力な支えとなります。
ただしこのケースでは、1年後には夫が65歳、2人目の子が18歳となり、加給年金が対象外となります。
ケース②:乳がん 障害基礎年金・障害厚生年金2級
属性:39歳女性 公務員(22歳~)休職中
家族:父、母(同居)
病名:乳がん
障害の状態:休職中。抗がん剤治療による吐き気や倦怠感が強く、両親に日常生活を助けてもらいながら生活している。
たとえば、「がん」のような病気でも、治療が長引き、仕事や日常生活に著しい支障がある場合は障害年金の対象となることがあります。
(支給例)
障害基礎年金2級:約83万円
障害厚生年金2級:約72万円
加給年金:0円(対象者なし)
合計:年間約155万円
働き盛りで働けなくなることは不安ですが、長く厚生年金に加入して働いていると、これくらいの保障が受けられる場合があります。収入保障保険に加入する際は、障害年金で足りない分を補てんする程度の保障額を検討するといいでしょう。
なお、傷病手当金をもらっている期間に、障害厚生年金が支給される場合、両方を満額受け取ることはできません。調整がおこなわれる点に注意が必要です。
ケース③:関節リウマチで人工関節置換 障害厚生年金3級
属性:62歳女性 パート(50歳~)
家族:夫58歳
病名:関節リウマチ(人工関節に置換)
障害の状態:関節リウマチの悪化により人工関節に置換する手術を実施。
育児が落ち着いてからパートを始めたケースです。
この場合、厚生年金保険料の納付額も低い場合が多く、支給額も低くなりがちですが、最低保障額が強い味方となります。
(支給例)
障害厚生年金3級:約62万円(最低保障額)
加給年金:0円(障害厚生年金3級に加給年金はつかないため)
合計:年間約62万円
これだけの保障があれば、「体を動かす仕事からデスクワークへの転職」など、働き方の選択肢も広がるのではないでしょうか。
今回、3つのケースで障害年金の支給例を紹介しましたが、障害厚生年金は厚生年金に加入していた長さやその間の収入によって金額が変わります。似たケースでも、金額や等級が違う場合もあります。障害年金の対象になる可能性があり、詳しく知りたいときは、年金事務所や障害年金に詳しい社会保険労務士にご相談ください。
障害年金に付随して受けられる制度も知っておこう
病気やけがで生活や仕事に支障が出た場合に使える制度は、障害年金以外にも複数あります。これらの存在も知っておくと、将来の備えになります。
障害年金生活者支援給付金
障害基礎年金(1級または2級)を受給している方のうち、所得が一定の基準以下である場合に、年金に加えて毎月定額が支給される制度です。
対象:障害基礎年金を受給しており、前年の所得が約480万円以下(扶養親族の数により変動)の方
金額:障害等級1級の方 6,813円(月額) 2級の方 5,450円(月額)
国民年金の法定免除
障害年金1級または2級に認定されると、その認定日がある月の前月分から国民年金保険料が免除されます。
医療費の軽減
医療費負担を軽減するための制度も複数あります。
●高額療養費
1ヶ月の医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じた上限額を超えた場合、その超えた分が健康保険から払い戻されます。
●付加給付
大企業の健康保険組合や公務員の共済組合に加入している場合には、高額療養費制度の上限よりもさらに手厚い「付加給付」が受けられる場合があります。組合によっては、ひと月の医療費の自己負担額が2〜3万円程度に抑えられることもあり、大きなメリットがあります。民間の医療保険を検討する際には、加入している保険組合に付加給付の有無を確認しておくことをおすすめします。
●自立支援医療制度・難病医療費助成制度
精神疾患や身体障害の治療、指定難病などで医療費がかかる場合に、負担割合が軽減されたり、所得に応じた上限が設けられたりといった助成がおこなわれる場合があります。
税金の控除
障害年金は、障害に伴う生活保障を目的とした給付のため、非課税です。所得税や住民税が引かれず満額受け取ることができます。
また、一定以上の障害状態にあると認定された場合(障害者手帳を取得するなど)で諸条件が満たされていれば、本人や配偶者(扶養に入った場合)の収入にかかる所得税や住民税が軽減される可能性があります。
たとえば、身体障害者手帳2級を取得している場合に所得から控除される額は、所得税が40万円、住民税が30万円です。年収が500万程度(所得税率が10%前後)の場合には、支払う所得税が約4万円、住民税が約3万円安くなります。
このように、困ったときに使える社会保障が実はたくさんあります。もしもの時に慌てないように、自分が使える制度は何かを知っておきましょう。その上で民間保険や貯蓄などで、適切に備えていくことが大切です。